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大阪高等裁判所 昭和33年(く)32号 決定

抗告人 氷川幸治

主文

本件抗告を棄却する。

理由

先ず本件抗告申立書に附せられた原裁判所の意見書によると、犯罪者予防更生法第四三条に基く戻収容の決定に対しては抗告が許されないから、本件抗告は不適法であるというのである。

しかし当裁判所はこれとその見解を異にするので、ここにその理由を明かにする。即ち、少年法第三二条が保護処分の決定に対して抗告をすることができる旨規定したのは、保護処分決定が、その性質上少年の人権に直接影響する事項を内容とする終局決定であることに鑑み、これに対して不服申立の途を開くと共に、保護処分以外の決定例えば検察官送致決定等に対しては抗告を許さない趣旨を明かにしたものであつて、必ずしも抗告のできる保護処分決定を厳格に同法第二四条第一項の決定に限定する趣旨ではないものと解すべきである。ところで犯罪者予防更生法第四三条に基く戻収容の決定は、その前提として少年法第二四条第一項第三号の保護処分である少年院送致の決定があり、その執行の過程においてその処分に基く少年保護の実効を期するためになされるもので、形式上同号の保護処分自体ではないけれども、実質上これと同視すべきものであり、殊に少年院送致の処分にはその性質上一定の年令上の制限がある外明確な期間の定めがない点から考えると、戻収容は仮退院によつて一応終了した少年院送致の処分を、その後に生じた事情を原因として復活し、場合により当初の年令上の制限を超えてこれを延長することを内容とするものであるから、新たな少年院送致の保護処分たる性質をも具有するものといわなければならない。従つて戻収容の処分も一つの保護処分として保護処分事件の例に従い、その決定に対しても抗告が許されるものと解することができるのであつて、少年審判規則第五五条が戻収容申請事件等の手続はその性質に反しない限り少年の保護事件の例による旨規定したのはこの趣旨を包含するものと解するのを相当とする。それ故戻収容申請事件については、その性質に反しない限り少年法第二章及びこれに基く少年審判規則の規定が適用されるのであつて、右規定中、少年法第二章第三節に定められた抗告に関する規定を戻収容の決定に適用することがその性質に反するものでないことは前叙により自ら明かであるから、戻収容の決定に対しては抗告が許されるものであり、本件抗告は適法であるとしなければならない。

よつて進んで本件抗告の趣意をみるに、その要旨は、原裁判所は少年を特別少年院に戻して収容する旨の決定をなしたが、右決定が認定した事実は間違つており、又その処分も不当である。

即ち少年はたしかに以前には悪い友達と遊んでいたが、今は悪い友達と交際していないし、無断で家をあけたり、家出をしたこともない。一時仕事をして止めたのは身体が悪かつたからで、病気を治してから又働きたいと思つている。先に大阪地方裁判所で窃盗罪で懲役一〇月但し三年間執行猶予の裁判を受けたが、この裁判を受けてから絶対に悪いことはしないと誓つており、又実際悪いこともしていない。従つて原決定には不服であるから、もう一度裁判のやり直しをしてほしいというのである。

しかし本件申請事件の記録及び大阪保護観察所の少年に対する調査記録を調べてみると、原決定が認定するように、少年が(イ)仮退院後、就労したのは前後通じて約二箇月位で、その余は大体正業に従事していないこと、(ロ)素行不良の者と交際していること、(ハ)保護者の言いつけを守らないこと、(ニ)パチンコに耽り、飲酒酩酊し、悪友と旅館を転々としていること等の事実を認めることができ、右認定に重大な事実の誤認があるものとは認められない。してみると犯罪者予防更生法第三四条第二項に基く一般遵守事項及び同法第三一条第三項に基く特別遵守事項の各一部に違背することが明かであり、且つ少年の既往における生活態度、行状、環境その他諸般の状況に徴すると、この際少年を特別少年院に戻して収容する措置も相当であり、原決定の処分に著しい不当があるものとも思われない。

よつて本件抗告は、理由がないものとして棄却すべきものとし、少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉田正雄 裁判官 竹中義郎 裁判官 井上清一郎)

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